R:ねえ、最近「国旗損壊罪」って言葉よく聞くけど、あれってどういう法律なのかしら?
M:確かに最近よく聞くな。ちなみに言うと、本記事を執筆したのは2026年6月30日だから、現時点ではまだ法案だぜ。
R:そうなのね。でも実のところどんな法案なのかよく分かってないのよね。
M:じゃあ今日は、「国旗損壊罪」について解説するぜ!

M:2026年6月16日、自民党、日本維新の会、国民民主党、参政党の4党が国旗損壊罪法案(正式名称:国旗の損壊等の処罰に関する法律案)を衆院に共同提出したぜ。この法案の一部を抜粋してみるぜ。

第二条 人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。

M:その名の通り、国旗を損壊したら罰するという法案だぜ。
R:なるほど。確かに日の丸を汚されたらあまりいい気分はしないわね。
M:おっと、その発言の中に3つ疑問点があるぜ。まず、「日の丸」ってなんなのだぜ?
R:白地に赤い丸が描かれた日本の国旗のことじゃない。
M:それじゃちょっと定義が曖昧すぎるぜ。もっと正確に定義づけするならば、国旗国歌法(正式名称:国旗及び国歌に関する法律)にあたることができるぜ。この法律によると、旗の縦横比が2:3、日章(円)が縦の5分の3の大きさで旗の中心に位置し、地が白色、日章が紅色、これが日章旗=日の丸の法的な定義だぜ。
R:そりゃそうだけど、ちゃんと細かく定義づけされてるのね。
M:だが、この法律が規定しているのはデザインのみで、当たり前だが材質やサイズは決まってないぜ。これだと、お子様ランチの旗も法的な国旗として扱わなきゃいけなくなるぜ。
R:その話、ネットで聞いたことがあるわ。確かお子様ランチの旗は例外にするらしいわね。
M:正確には「例外にする」のではなく、法案の定義自体で最初から除外されているぜ。「社会通念上、国旗の用に供していると認識される有体物」が国旗と定義されているから、お子様ランチの旗やアニメの創作物はそもそも対象に入らないという建付けだぜ。でもこんな議論を真面目にしている今の政権ってすごく暇なんだろうな。デザインについてのみ規定されているということを前提に話を戻すと、一見すると現行犯逮捕が非常に難しくなるはずなんだぜ。
R:どういうこと?
M:デモの現場で旗を破いている人がいて、警察官がその様子を目撃したとしよう。警察官は、その破いた旗が本当に日の丸なのかを調べる必要があるぜ。まず旗の縦横比を測って、円の位置と大きさを測って、色をカラーコードで照合して……
R:そんな手間、現行犯ではかけられないわ。もし旗を燃やす行為がされたのなら、そもそも現物が失われちゃうから調べようがないし。
M:……そうなるはずだったんだぜ。
R:一体どうしたのよ。
M:実は、この法案では現行犯逮捕が可能な作りになってるんだぜ。
R:さっきと話が違うじゃない。
M:さっき話したような手順を踏むことなく、警察が独自の判断で逮捕を行うことが可能なんだぜ。それは条文に「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により」と書かれていることから分かるぜ。簡単に言えば、国旗を損壊している様子を見て一市民が不快に思って警察へ通報したら、その時点で犯罪が成立してしまうんだぜ。だってその通報した人が「著しく不快又は嫌悪の情を催」したのだからな。
R:個人の感想のみで犯罪かどうかが決まるってこと?そんなの、法律としておかしいじゃない。
M:国旗損壊罪が指す「国旗」に厳密性は必要ないんだぜ。たとえどんなに杜撰な「国旗っぽい何か」であっても、一市民が不快に思えばそれはもう立派な「国旗」損壊罪になるんだぜ。また、家で日の丸にバツを描いてから外に持って行き振る行為も国旗損壊罪に当たるぜ。その場で描いていなくても、振る様子を見た市民が不快に思えばそれでいいんだからな。
少し脱線するが、「外国国章損壊罪」という、外国の国旗を損壊したら罰する法律はすでに存在するぜ。高市は、外国の国旗の場合には損壊を罰する法律があり自国の国旗についてのそれは存在しないことを立法の理由の一つに挙げているな。ただ、外国国章損壊罪が保護する利益である保護法益は良好な国交関係にあって、実際外国政府からの請求がない限り立件することができない親告罪となっているぜ。つまり立法の趣旨がまったく異なるから、「外国旗を罰するなら自国旗も」という対比論法には根拠が薄いとも言えるぜ。また、外国国章損壊罪が実際に適用されたことも一回しかないぜ。

M:2つ目の疑問点だが、「汚す」って具体的にはどういう行為のことを指すんだぜ?
R:そんなの、ビリビリに破いたり上からバツを描き足したりしたらじゃない。
M:そうか。なら、最近ワールドカップが盛り上がっているが、日本代表のサポーターが日の丸に「頑張れニッポン」と書くのは損壊になるか?
R:それは流石に違うでしょ、と言いたいところだけど、さっきの話を聞いてたらちょっと自信がなくなってきたわ。
M:「侮辱を加える目的の有無等個人の内心は詮索せず、外形的・客観的に判断する」と自民党は回答しているぜ。国旗を損壊した人がどのような思想信条のもと損壊をしたかに着目して犯罪かどうかを見極めることは内心の自由に反するから判断基準とはしない、ということだな。でもこのことは、「その表現が人に不快感を与えるかどうか」という他者の主観に依ることを裏付けることにもなっているぜ。だから「頑張れニッポン」と書かれた日の丸を、なんだか古風な右翼が見て「チャラチャラしやがって、神聖な日の丸に軽薄な文章を書くなどけしからん!」となってしまったらそれはもう「人に不快感を与える表現」になり、捜査対象となってしまうわけだぜ。最近も、ある自民党の議員が「立憲民主党の事務所が祝日に掲げていた」という文言とともに、カビがかった日の丸の写真をSNSに投稿していたぜ。これは完全に国旗損壊罪を利用した嫌がらせだな。これらのように、人が不快に思えばどんな国旗だったとしても犯罪になり得るのが国旗損壊罪だぜ。情に客観性なんてないのは当たり前だぜ。しかも、これで左派的な内容の「損壊」のみ処罰するようだったら、まさしく市民を思想で差別することになるから、この法案が通ったら思想信条の自由なんて無きも等しくなるぜ。
R:左派的な内容でも右派的な内容でも言い方次第で「損壊」になり得るし、左派的な内容のみ「損壊」認定をすると思想信条の自由に反することになるし、どっちにしろ混乱と反発を招くわね。
M:もう一点確認しておくと、他人の国旗を損壊した場合は、今まで通り器物損壊罪が適用されるのだぜ。なぜなら、器物損壊罪の法定刑(3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料)の方が国旗損壊罪の法定刑より重いからだぜ。国旗損壊罪が想定しているのは、自分が所有する国旗を損壊することに限るのだぜ。自分のものは別に好き勝手に扱って当然だぜ。これじゃ表現の自由の侵害だぜ。
R:でも、法案には「公然と国旗を損壊し」とあるわ。自分の家でこっそり損壊するのと、人前で損壊するのとは話が変わってくるわ。例えば、嫌いな人の写真に大勢の前で落書きしたら侮辱罪になり得るわ。
M:それとこれとは話が違うのだぜ。侮辱罪は個人の名誉を守るための規定だぜ。守られる対象が特定の個人だからこそ成立する。でも国旗損壊罪で「侮辱される」のは国という抽象的な公的存在だぜ。国家の威信を傷つけたという理由で自己所有物の処分を刑事罰で禁じることは、表現の自由への制約として正当化しづらいという問題があるぜ。

M:そして3つ目の疑問点だが、なぜRは国旗が汚されたら「いい気分はしない」んだ?
R:個人の感想のみで成立してしまうことが国旗損壊罪の危ないところだということは分かったわ。でも、やっぱりこれは自然な感想だと思うわ。だって国旗を否定されたら、その国に住む私たちまで否定された気になるもの。
M:本当にそれは自然な感想か?
R:どういうこと?
M:法案の検討事項には「国旗を大切に思う国民感情を保護する」ことが必要であると書かれているぜ。ただ、果たして国民全員が国旗を大切に思っているのか?この論理は裏返せば、「国民は全員国旗を大切にしなければならない」前提を含んでいるぜ。これは「愛国心」という特定の思想の押し付けであり、内心の自由の侵害だぜ。
R:でも、日本人で日の丸が嫌いで愛国心を持っていない人なんているのかな。
M:私は反日だぜ。日の丸を汚したくてしょうがないし、天皇制を廃絶して国家転覆してアナーキーな世界を望んでいるぜ。
R:そうなの!?売国奴はこの国から出てけ!……なんて下品なことは言わないわ。でも、どうしてそんなに日の丸に対して否定的な感情を持っているの?
M:日の丸が侵略・植民地支配の象徴として用いられてきた歴史があるからだぜ。幕末に外国船との区別のために日本船の舳先に掲げられるようになった日の丸は、明治期になって天皇制と富国強兵政策のもと、天皇と国家の象徴として学校に持ち込まれ、社会に浸透していったぜ。出征する兵士は日の丸の小旗に見送られ、日本軍は中国やアジア諸国で強奪と殺戮の限りを尽くし、占領の証として日の丸が掲げられたぜ。現代でも、参政党の街宣や移民政策反対デモなどの現場では、多くの参加者が日の丸を持ちながら排外主義的な言説を流布しているぜ。もはや日の丸はハーケンクロイツと同じ、いやそれ以上に悪いものだと思うぜ。単なる一政権を象徴する旗ではなく、侵略を行ってきた国家自体を象徴する旗だからな。
R:そんな歴史があったのね。そりゃ日の丸が嫌いになってもしょうがないわ。
M:もちろん日の丸が好きな人がいること自体は否定しない。ただ、このような残虐な歴史があって、それを踏まえた上で日の丸が嫌いだという人がいるということも知ってほしいぜ。「日の丸を大切に思うのが当然」という前提は、その人たちを最初から排除していることになるだぜ。
R:分かったわ。というかここまで話を聞いていると、こんなにも杜撰な法案なのになんで高市政権はここまで躍起になって成立させようとしているのかしら?
M:愛国心を社会に浸透させ、国への批判を言いにくい空気を作り、最終的には戦争をしやすい国にするためだと思うぜ。
R:どのようにして戦争につながるというの?
M:実は、すでに愛国心の強制が行われている現場があるんだぜ。それは教育現場だぜ。
R:学校ではどんな強制が行われているの?
M:2006年の教育基本法改悪によって「国を愛する態度」を養うことが教育の目標であることが明記されたぜ。また、2003年には当時の石原慎太郎都知事が「10.23通達」を出したぜ。これは、「入学式・卒業式で教職員は起立・斉唱する」ことを規定したもので、従わない場合は責任が問われることを明記したぜ。これは単なる通達だから法的拘束力は実際にはないが、日の丸・君が代が戦前の軍国主義の象徴であり、教員が教え子を戦場へ送り出した歴史があることから不起立・不斉唱を行った教員が数多く処分されたぜ。しかもこの処分は学校が独自に行った処分であることが重要だぜ。政府が直接手を下すことなく、勝手に「反日分子」を排除してくれるんだから、こんなに楽なことはないだろうな。このように、法自体に強制力が無かったとしても、多くの人々が「空気を読む」ようになることで、国に対しての批判が出せなくなるのだぜ。
R:そしてその流れで、戦争へ進むことの批判も出せなくなると……なんだか凄く恐ろしい法律ね。
M:現在、「国旗等損壊罪」反対連絡会という市民団体が反対運動を展開しているぜ。実際に不起立・不斉唱で処分を受けた元教員の方々が中心となって結成された団体で、オンライン署名や国会前行動などを行っているから、ぜひチェックしてくれよな。

執筆後記
普通の文章として書くよりかは、なんとなく対話形式で書いた方が言いたいことが書けるんじゃないかと思い、饅頭2匹がゆっくり掛け合うような形となりました。
6月30日、衆院本会議において可決されました。このままだと今会期中で成立する見通しです。どうせ違憲審査されるとは思いますが、そもそも成立されること自体最悪なので、流石に変すぎる法律だと皆さんでまだまだ声をあげていきましょう。